2008/10/06

SW2.0: バルトゥーの屋敷リプレイ

*mixi のゲームサークルコミュニティ (クローズド) に投稿してあった記事の転載。*

ルールブック掲載の既成シナリオを使用。 リプレイという性質上、全編これネタバレなので、これからシナリオをプレイする方はご注意ください。

「やぁ!いい遺跡をみつけたんだ、探索してみないかい?」
声をかけてきたのは探し屋のエルフ、『葉っぱをのせた』マイエルだ。
おれ達はちょうど仕事を探しているところだった。友人たちは皆手持ちの金が底を尽きかけていて、明日のメシも危ういという有り様なのだ。おれだけは少々余裕がないでもないが、只で養ってやれるほどの額ではないし、いくら仲間とはいえそこまで親切にはできない。
情報料は前金で 100 ガメル。仲間 5 人で割り勘といきたいところだが、こいつら、高がそれっぽっちの金も出せないほどの困窮っぷりだ。
「……とりあえずお前ら、各自 10 ずつ出しやがれ。残りはおれが出す」
いそいそと差し出された 10 ガメルを集め、60 ガメル足してマイエルに渡す。
「そうこなくちゃね」
マイエルによると、件の遺跡は町から半日ほどの距離にある多重階構造の建物で、魔道機文明時代のものだそうだ。入り口の扉は最近開けられた形跡がなく、未探索である可能性が高い。彼が差し出す紙に文字が浮かんでいる。エントランスにあった 2 体の石像の足元から、証拠として文字を転写してきたのだという。レイモンドがいうに、《バルトゥーの屋敷》と読める、と。
マイエルがすぐにでも案内するというので、おれ達は早速でかけることにした。

さてこの記録を書いているおれの名はアレクサンドルという。小剣を扱う軽戦士だ。シューラというのが愛称だが、誰もそうは呼びやがらない。先だって、故あって冒険者家業に足を突っ込んだ。行を共にしているのは、おれと同じく人間の大剣使いアンソニー、ドワーフの神官戦士ドゥイン、タビットの真語使いバーニー、そしてルーンフォークの魔道機士レイモンド。
アンソニーはやや無口だが、剣の腕はそれなりに頼りになる。
ドゥインは口を開けば素頓狂なことばかり抜かすが、神官の癒しの術は探索にかかせない。
バーニーは少々小狡く小憎らしい口を利くが、魔法を使える奴は重宝だし、何よりタビットの勘はなめたもんじゃない。
レイモンドは……かなり常識はずれだと思うが、まぁ造られてから 3 年しか経っていないルーンフォークだということもあり、また魔道機文明語ができるのがこいつだけなので、とりあえず我慢して様子見といったところか。
まだ探索の経験も少ない上に知り合って間もなく、とても息の合った一行とは言いがたい。まぁ、今回買った情報の遺跡は町から遠くない。蛮族と出会うことがあるとしても、手に余るほどということはあるまい。まずはしばらく食っていけるだけの稼ぎを上げないことには、蛮族に倒される前に飢え死にするのがオチって奴だ。命がかかってりゃ人間なんかしらできようってもんだ。

さて、マイエルの案内でおれ達は遺跡へ向かった。町を出て森に入り、4 時間ほども歩いたろうか、前方にそびえる崖に埋もれるように、石造りの建造物が姿を現した。近づいてみると、2 階にあたる部分に鎧戸に閉ざされた窓が見え、1 階正面の玄関は片方の扉が開いている。
「おかしいな、ちゃんと閉めてきたのに」
マイエルがつぶやく。まだ若いとはいえ腕のいい探し屋のこと、扉を開けたままにするような失態は犯す筈がない。玄関あたりを調べてみると、案の定、蛮族らしき足跡があった。中に入ったまま、まだ出て来てはいないようだ。
開いている扉をくぐった先は埃くさい大広間、翼を持つ悪鬼の像が左右の中ほどに置かれている。その台座にはマイエルが紙に写し取ってきたものと同じ文字が彫り込まれており、探し屋の情報が正しかったことを裏付けていた。
「それじゃ、頑張ってね」
そそくさと引き返すマイエルをよそ目に、おれ達は探索を始めることにした。

床には、正面奥の扉に続く足跡が見て取れた。まずはこの連中を片付けなければ落ち着いて探索することもできない。広間には石像の他に特に目をひくようなものもなく、おれ達はそのまま奥の扉へと歩を進めた。
その先は左右に延びる短い廊下だ。右手には上りの、左手には下りの階段がある。蛮族の足跡が左右どちらに向かっているか、判別できない。廊下の中央にはまたもや石像。翼の生えた女性の姿で、目には宝石が嵌め込まれている。
蛮族の痕跡を見失って戸惑うドゥインとおれ。だがアンソニーとレイモンドは早速ナイフを取り出したかと思うや、石像の左右の目にそれぞれ取り付いて宝石をこじり始めた。おかしなところで気が合うものだ。ドゥインが左手、おれが右手を見張る中、バーニーに見守られつつ二人はほぼ同時に宝石を取り出すことに成功し、小さく歓声をあげる。ひとつ 80 ガメルにもなればいいかという程度の品ではあるが、少なくともこれで情報料の元は取れたということだ。
蛮族がどちらへ向かったかわからないので、まずは 2 階を調べることにする。階段を上ると、奥へ続く廊下に出た。右手は崖に埋もれた側で、土砂に閉ざされた窓がふたつ。左手には手前と奥に扉がふたつあり、奥の扉の前に足跡がみつかった。しめた、蛮族を片付けることができそうだ。
と、
「それじゃ、奥にはライバルがいるみたいだから手前の部屋から調べましょうか」
レイモンドが言い放つ。一体何を言い出すのだこの男は。
「いいか、よく聞け、こういう時はだな……、」
奥の部屋に蛮族がいる、このまま奥へ向かって蛮族を倒せば、後の探索の危険性はずっと下がる、連中を放置するならば、部屋から出てきた奴らに自分達が退路を断たれないとも限らない、第一、奥の部屋に敵を追い詰めるなら外から見えた窓から連中が逃げ出すことも考えられるが、手前の部屋を捜索している間に奴らが襲ってきたらおれ達こそ袋の鼠、6m ほどもの高さから飛び降りなければならない羽目になるのはこちらということにもなり兼ねない……。
こんこんと言い聞かせると、レイモンドもしぶしぶとだがなんとか黙った。他の 3 人はその間に奥の部屋の様子を探っていたようだ。なにやら楽しげな様子の声が聞こえてくるという。
扉を蹴破ろうとするドゥインを押し止め、そっと取っ手を引く。部屋の中には、大きな寝台の上で飛び跳ねる蛮族の姿があった。ゴブリン 3、ボガード 1。武器を引き抜きながら部屋になだれ込む。蛮族たちはこちらに気付くと、怖ろしい形相で襲い掛かってきた。上等だ、叩きのめしてやる。

たちまち乱戦となった。数はこちらが上回っているが、バーニーを敵の攻撃に晒すわけにはいかない。手早く指示を飛ばす。アンソニーをボガードに向かわせ、バーニーにはその補助をさせた。ゴブリンは他の 3 人でとりあえず凌ぐべし。レイモンドは殴り合いには向かないが、ひ弱なタビットであるバーニーよりはよほど頑丈なはずだ。
アンソニーが一撃を加え、バーニーのエネルギー・ボルトが炸裂すると、ボガードは瞬時に倒れた。これは幸先がいい。ドゥインは斧を大きく振りかぶって斬りかかるが、ゴブリンは生意気にもひらりとかわした。レイモンドのソリッド・バレットは標的を逸れ、石壁のかけらを撒き散らす。おれは目の前のゴブリンに軽く突きを喰らわせ、相手の攻撃を難なく避けた。レイモンドが殴られたようだ。次はあのゴブリンを倒さなければ……。
アンソニーにレイモンドの加勢を、バーニーにはドゥインのサポートを指示する。レイモンドはまた外したようだが、アンソニーの重い一撃がゴブリンを弾き飛ばした。こいつ、なかなか使える。ドゥインの斧が再び大きく空を斬る。バーニーの魔法は確実にゴブリンに突き刺さり、苦悶の悲鳴を上げさせた。ゴブリンの武器がドゥインをかすめたものの、大したことはなさそうだ。おれは対するゴブリンの懐深く突きを入れ、刃先が肉を抉る感触をひそかに楽しんだ。これは思ったより楽勝だ。
残る 2 体のゴブリンは、劣勢にもかかわらず戦う意思を見せた。所詮程度の低い蛮族のこと、頭に血が上って周囲が見えていないのに違いない。ドゥイン、バーニーの方にレイモンドを差し向け、アンソニーにはおれの相手を狙うよう合図する。ドゥインの斧は三度目の正直、ゴブリンの頭を叩き割り、アンソニーの片手半剣がもう一方のゴブリンを斬り伏せた。
圧勝だ。
自分の采配の巧みさにに内心ほくそ笑む。
蛮族の死体を漁ると、ガラス玉で装飾されたカギが見つかった。おそらく屋敷のどこかで使うことになるのだろう。ドゥインがレイモンドの傷を癒し、それから全員で室内を探った。調度品は蛮族にあらかた破壊され、価値を失ってしまっている。かろうじてクローゼットの残骸から銀製とおぼしき腕輪が出てきた。背嚢に放り込み、寝室を後にする。とりあえずの脅威が消えたところで、じっくりと探索を続けることにしよう。

階段に近い方の扉を開け、中を調べる。そこは書斎だったらしく、机と椅子、本棚が置かれていた。本棚に納められた書物はあらかた痛んでしまっていたが、綺麗な状態のものがかろうじて 3 冊見つかった。机からも 1 冊の書物が出てきて、魔道機文明語の読めるレイモンドによれば、この屋敷の主バルトゥーの日記であるという。その内容から、バルトゥーは番兵として使われる魔法生物の研究家であり、また、珍しい煙管のコレクターでもあることがわかった。
ふと本棚に違和感を覚え、おれは目をこらした。なにやら仕掛けのようなものがある。手を触れると本棚自体が動き、新たな空間が覗いた。隠し部屋だ!期待に胸が膨らむ。
その小さな部屋にはひとりがけのソファが置かれ、壁には棚があった。棚には高級そうな煙管のセットと小箱が仕舞われていた。煙管は保存状態がよく、少なく見積もっても 500 ガメルは下るまいと思われる。なかなかの収穫だ。
ドゥインが小箱を開けた途端、かちりと小さな音がした。しまった、罠だ。驚きと痛みに声を上げるドゥイン。おれとしたことが。軽く調べて罠が仕掛けられていないことを確かめたつもりだったのに。これまでの探索がうまい調子で進んできたことに浮かれて、注意力が散漫になっていたようだ。とんだ失態だ。
小箱からは古びた煙管が出てきた。ドゥインが自分に呪文を唱えて傷を癒している間に、バーニーが煙管にセンス・マジックの魔法を使う。どうやら魔力の込められた品らしい。これら 6 本の煙管を戦利品に加え、おれ達は階段を下りて地下へと向かった。ここからは一層気を引き締めてかからねばなるまい。

階段を下りた先は四角い部屋で、一方の壁には優美な彫刻の施された扉があった。部屋を調べたところ、扉の少し手前に落とし穴があることがわかった。注意深く落とし穴を避けて扉に近づく。扉は閉ざされており、カギ穴があるのが見て取れる。蛮族から奪ったカギを差し込むと、ぴたりと嵌まった。
そっと扉を開いて中を覗き込む。そこは大きな部屋だった。バルトゥーの研究室だったに違いない。床には複雑な魔方陣が所狭しと描かれ、天井は青白い輝きを放っている。未だ魔力が残されているのだろうか。壁際の棚には何に使うのやら見当も付かぬ怪しげな資材が並べられている。何よりも不気味なのは、青白い光を受けて佇む、10 体もの石像の姿だった。入り口の扉の並びに、もうひとつの扉が見える。
おれ達は用心しつつ、そろそろとその扉へと向かった。不気味な石像から目が離せない。床の魔方陣を踏まねば進めないというのも不快だ。魔方陣に気を取られた一瞬の隙に、目の端で何かが動いた。
慌てて振り返るおれ達の目に映ったのは、宙に舞い上がり、こちらに突っ込んでこようとする 2 体の石像と、腕を振り回しながら突進してくるこれまた 2 体の木の人形だった。おれ達は武器を引っつかみ、襲いくる番兵との戦いを開始した……。

(時間の都合でこの戦闘は省略されました)

無我夢中で武器を振るっていたので、戦況がどのように推移したのかはっきりしない。覚えているのは、最後の番兵が崩れ落ちたときには、おれ達の方も半死半生の態で、魔力も尽き、己の血にまみれて喘いでいたことだけだ。おれは戦況を把握できないのが何よりも嫌いだ。こんな無様な戦いは二度と経験したくない。 戦闘の興奮が去り、落ち着きを取り戻すと、おれ達は気力が尽きる前に部屋を捜索することにした。この苦労に見合うだけのものを、なんとか見つけ出したいものだ。だが、研究室に置かれている物品は痛みが激しく、価値のありそうなものは見当たらない。残るはもうひとつの扉だ。
扉にはカギがかかっていたが、道具を使ってこじ開けることができた。
その奥は、きちんと整頓された書斎のような部屋で、机や棚にはさまざまな実験道具や資材が並んでいた。保存状態は良好。これらを持って帰ればいい値で売れそうだ。分厚い本も 1 冊、どうやらバルトゥーが記した、魔法生物に関する研究書らしい。その手の好事家には垂涎の品だろう、かなりの価値があるに違いない。いや、あってくれなければ困る。
これで屋敷の全ての部屋を探索したはずだ。急いで戻れば日暮れには街にたどり着けるだろう。疲れきったおれ達は戦利品をまとめ、バルトゥーの屋敷を後にした。

店の親父がいう。
「おう、剣のかけらだな。これは献上するんだな。よし、初めての献上だ。一旦俺が買い取ってからお前らの名前で献上しておいてやるよ。まぁ、祝いだ、受け取れよ」
戦利品は、全て合わせて 6,110 ガメルで売れた。バルトゥーの研究書には 2,000 ガメルもの値がついた。苦労も報われようというものだ。
ひとりにつき 1,222 ガメル。情報料の内訳などは捨て置き、5 人できっちりと分配した。金に関していえば、細かいことにこだわるのはおれの性分じゃない。金にうるさすぎる奴には仲間がつかないというのは本当のことだ。
レイモンドが銃を買い換えたいという。しかし目当ての銃は 2,000 ガメル。何をいいたいのかはわかる。黙って 1,000 ガメル渡してやる。無論、借用書にサインさせるのは忘れないが。
親父の話は続く。
「そのかわりアレだ、せっかくだからおまえらが名乗る名前でもつけちゃどうだ?」

おれ達が名乗る名前?
冒険者はそれぞれ名が売れてくると、いわゆるふたつ名を名乗るようになる。いつも同じ面子で組んで冒険をしているならば、そのグループに名前をつけ、その名で仕事を請け負ったりというのが普通のことだ。つまり、おれ達が何か名を持つということは、ひとつの共同体として運命をともにするということになる。
途端にドゥインが張り切りだした。『炎のミスリル団』?ドワーフらしい発想だ。響きはいいがおれ達のどこが炎でどこがミスリルだ?
おれは天を仰ぐ。
「この貧乏人集団にゃ、『はらぺこ団』あたりがお似合いだ」
「そりゃいいや」
親父の大笑いが、がははと天井にこだました。

筆: まゆげ

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